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大阪地方裁判所 昭和57年(ヨ)237号 決定 1982年2月04日

申請人

阪本義明

右訴訟代理人弁護士

西本徹

岡本一治

被申請人

北港タクシー株式会社

右代表者代表取締役

山本隆

右訴訟代理人弁護士

下村末治

三瀬顯

野間督司

近藤正昭

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、申請人の申請を左の限度で相当と認め、申請人に保証を立てさせないで、次のとおり決定する。

主文

一  被申請人は申請人に対し金二八万三、〇七四円を仮に支払え。

二  申請人のその余の申請を却下する。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

一  申請の趣旨及び理由等

別紙記載のとおり。

二  当裁判所の判断

1  申請の理由1ないし4記載の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁について

申請の理由2記載の合意が形式上労働組合法七条三号に規定する経費援助に該当することは明らかである。

しかし、使用者の労働組合に対してなす資金援助が形式的には支配介入としての経費援助に当る場合であっても、それが労働組合の自主性を失わせず労働者の団結権を侵害するおそれがない場合には不当労働行為としての経費援助には当らないと解されるので、この点について判断する。

疎明資料によれば、申請の理由2記載の合意は組合の努力により被申請人から勝ち取ったものであること、組合は右合意の後にも組合員の賃銀の改善等をめぐって被申請人との間で団体交渉を続けるなどしていること、申請人は、毎月の賃銀保障として組合から毎月二〇万円余りを支給されており、被申請人から支給を受ける夏、冬の一時金は右賃銀保障を補充するものにすぎないことがそれぞれ認められ、右認定事実によれば、申請人が、右合意に基き被申請人から夏、冬の一時金を支給されることによっては組合の自主性が失われ労働者の団結権が侵害されるおそれがないことの疎明が存する。

したがってこの点での抗弁は理由がない。また、本件全疎明資料によるも被申請人が右合意を解約したことを認めるに足りる疎明はなく、この点での抗弁も理由がない。

3  保全の必要性

疎明資料によれば、申請の理由5記載の事実が存在することの疎明が存する。被申請人は、組合専従者たる申請人に対しては組合がその生活を保障すべきであるからこの点で保全の必要性を欠く旨主張するが、疎明資料によれば申請人は組合から賃銀保障として毎月二〇万円余りを受けとっているにすぎないことが認められるのであって、組合に申請人の生活を保障すべき義務があるからといって直ちに本件仮処分申請の保全の必要性が欠けるとはいえない。

ところで疎明資料によれば、申請の理由3項記載の申請人が受けるべき冬期一時金の総額中には失業保険料一、八九六円、社会保険料一、〇三四円、所得税二万七、三五〇円の総額三万四、五三四円の通常控除されるべき金額が含まれているところ、右金額については保全の必要性を欠くと認められる。

三  結論

してみると、申請人の本件仮処分申請は申請人が受けるべき冬期一時金の総額金三四万四、八一四円から既払分の金二万七、二〇六円及び社会保険料等の合計額金三万四、五三四円を控除した金二八万三、〇七四円の範囲で理由があるから右限度でこれを認容し、その余は理由がないから却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林正)

(別紙) 事実

一 申請の趣旨

被申請人は申請人に対し、金三一万七、六〇八円を仮に支払え。

二 申請の趣旨に対する答弁

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

三 申請の理由

1 被申請人は、約三〇〇名の労働者を有し、タクシー、ハイヤー業務を目的とする株式会社である。

申請人は、被申請人の労働者の内一六五名で組織する全自交北港パシフィックタクシー労働組合(以下組合という)の代表執行委員長である。

2 被申請人と組合は、昭和五二年一月一〇日、申請人に対する一時金支払について、申請人が組合業務専従者であることに鑑み、申請人に対し夏、冬の一時金のみ支払うことを合意した。

3 被申請人と組合は、昭和五六年七月一四日、同年夏、冬の一時金に関し、勤続満六カ月以上の全乗務員一人平均金五二万五、五〇〇円、内冬期一時金二八万九、五〇〇円とする旨の合意をなした。

被申請人と組合は、同年一二月一一日、右冬期一時金二八万九、五〇〇円の配分につき、一律配分を八七パーセント、年功配分を一〇パーセント、家族配分を三パーセントとすることに合意した。

右合意に基き計算すれば、申請人の同年冬期一時金は、総額三四万四、八一四円(一律配分額二五万一、八六五円、年功配分額七万七、九七六円、家族配分額一万四、九七三円)となる。

4 被申請人は、前項の合意に基き、昭和五六年一二月一五日、申請人以外の組合員に対し計算通り冬期一時金を支給しながら、申請人に対しては組合専従であることを欠勤扱いし、二万七、二〇六円を支給したのみで残額三一万七、六〇八円の支給をしない。

5 申請人は、妻と子供二人を扶養しており、かつ、組合の代表執行委員長などの要職にあり、多様、繁忙な活動をしていることからすれば、毎月組合から二〇万円程度の組合専従に伴う賃金保障を得ていても右冬期一時金残額の支給を受けなければ生活を維持できない。

四 申請の理由に対する認否

1 申請の理由1ないし4記載の事実は認める。

2 同5は争う。組合規約は、組合専従者に対しては組合が生活を保障する旨規定しており、したがって本件仮処分申請の必要性は全くない。

五 抗弁

申請の理由2記載の合意は、労働組合法七条三号に規定するいわゆる資金援助にあたり無効である。そこで被申請人は、昭和五六年八月四日、申請人に対し右合意の解約を申入れたもので、右合意は解約された。

六 抗弁に対する認否

抗弁記載の事実は否認し、主張は争う。

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